呼吸を調整する上で絶対に外せないところが、“上腹部”の解放と“下腹部”の呼吸に伴う動きの正常化及び強化です。
総称して腹部とさせていただきますが、腹部は呼吸によってダイレクトに動きが反映される部位ですので、呼吸を調整するという視点に立てば、腹部を無視することはできないというのは基本です。
不調体質の方の多くが、上腹部を過剰緊張させ、下腹部に力が入らない状態を起こしています。これは中医学では腹部の上実下虚ということになり、これを上虚下実、つまり上腹部を解放し、下腹部を力強くするというのが一つの目指すべきところです。
この上実下虚という状態は、呼吸で言えば呼気に問題があると考えます。呼気時の呼気に伴う腹部の動きが正常ではないということになります。
この問題は、女性に多くみられる傾向があります。その理由は女性の生理周期と深く関係があり、女性の腹部、とりわけ下腹部は男性に比べ、常に変化しています。
身体の動きの癖や呼吸の仕方など何等かの理由で、上実下虚という呼気時の動きを修得してしまい、正常化されていない状態を、生理周期で言えば2~3周期回ると本格的に症状として発現しやすくなります。
顕著な例で言えば、産後に体調を崩す方の多くは産後に腹部の動きが正常化されるまで回復できていないということになります。これが大きな問題であり、更年期と呼ばれる年代になるまで放置されてしまっていることも少なくありません。
また、産後に限らず不調が慢性化している場合や、情動がコントロールできないレベルにある方も同じ問題をはらんでいます。
さらに言えば、男女問わず腹部に手術歴がある方などにも多くみられます。
このように腹部の在り様は極めて重大な影響を心身に与えるものであるという事実はおさえておきたいところです。
この腹部を調整する時には後述しますが、3方向からの視点が重要であると考えます。
言い方を変えれば確かに腹部は呼吸によってダイレクトの動きが出る部位ですが、呼吸法だけでは呼吸は調整されないということにもなります。
その理由は、腹部というのは単に腹部のみを調整すればよいという単純なものではないからです。
3方向からの視点を具体的に言えば、上肢と腹部、下肢と腹部、上肢・下肢と腹部の機能的な関連です。
上肢の動きが腹部が影響を与えますし、下肢の動きも腹部に影響を与えます。影響を与えられた腹部は上肢・下肢それぞれに影響を与えます。
どちらが先というよりも同時に起こっているものです。
わかりやすく言えば、手足が上手に使えない方は腹部がうまく使えない方でもあり、同時に呼吸がうまくできていないということになります。
である以上、腹部の調整を行う際には、上肢の動き、下肢の動きを含めて調整する必要があります。
私がいつもお伝えしている調整法(呼吸動作法)には、
①上肢と上腹部(頚肩腕の解放)、②下肢と下腹部(下肢ー体幹の連動回復)、③上肢・下肢と腹部(腹部疎通法)、という3つの調整視点、そしてそれらを系統的に調整していく中で、上腹部の解放と下腹部の正常化をすることをしつこく求めます。
ここの完成度やレベルが、呼吸のレベルに直結すると言っても過言ではありません。