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コラム

2016.08.22

セルフケアと養生法の違い

 セルフケアと養生法は違う、という事は様々なところでお話しています。

 この明確に定義分けされていない両者ですので、定義分けする必要性があるかどうかは人それぞれです。

 私はこの2つを明確に似て非なるものと分けています。あえて整理して分けてみる事で見えることもあります。

 今回のコラムでは、それを少し詳しく書いていきます。

 結論を申し上げれば、セルフケアは個別原因と結果、養生法は全体要因とプロセス(日常の変容)、という傾向があるという事になります。

■セルフケア
 セルフケアが個別原因と結果であるとするならば、それは施術に近いものを持っています。施術も、基本的に個別原因と結果です。

 それがセルフであるか、施術であるかの手段が違いだけで元々の考え方は同じような方向性を持っています。

 具体的に言えば、腰が痛いから足のストレッチをする、腰が痛いから足を調整する、というものです。

 このセルフケアの視点で考えれば、以下の点が重視され、それが満たされたものが優良であるというイメージになります。

1、楽である、簡単である、シンプルである。

2、時間がかからないこと。

3、結果が目に見えてわかりやすい、現象面の変化が強いこと。

 具体的に言えば、瞬間で骨盤の高低差を治す、肩の高さを治す。または瞬間で圧痛が消える、瞬間で関節可動域が改善される、というようなものです。

 この視点からみれば、じっくり1時間かけてストレッチするというような行為が否定的にみえてしまいます。

 事実、瞬間技というのは多くあり、その瞬間技を標ぼうする方ほどに時間をかけることのデメリットを説く傾向もあります。

 特に治療師の先生がセルフケアを発信する場合において多くみられる傾向であり、それは治療師という視点で考えている以上、致し方のないことです。

 しかし、そのデメリットは養生という視点に立てばメリットになり、セルフケアのメリットがデメリットになることもあります。

■養生法
 養生法の場合は、個別原因というよりも人間が普遍的に抱えている問題や傾向そのものに対してのアプローチと、結果というよりもそのプロセスにおいて何に気付き(自分を知り)、またそれがどのように日常生活に落とし込めるのか?というところを重視していると私は考えます。

 膝が痛いとすれば、セルフケアはその痛みがなくなる何かをして痛くないという結果に至り、

 養生法では、そもそも膝が痛いのであれば、その使い方(プロセス)を見直し、日常の使い方まで変容させるというものです。

 これには一定の時間が必要になります。

 もっと言えば、結果的に時間と頻度と期間が必要になります。

 

■一つの手法にみるセルフケアと養生法の違い 
 “適切な質問”という例をあげて説明します。

 私がお伝えしている調整法には“肩を開ける”というものがあります。これは上肢全体にある刺激を起こす事によって身体と感覚に変化を促し、また変化をもたらすものでもあります。

 身体的な効果としては全身、とりわけ肩から腕全体が短時間で驚くほどに脱力できるというものです。また肩関節や頚椎の可動域も変わりますので目に見えてその効果がわかります。

 身体的に見れば4~5分ほどで終了する調整法ですので、簡単・短時間で効果が明確ということが言えます。

 ここまでがセルフケアの領域であり、身体的な効果だけを目指すのであれば、それでいいのですが、実際にはその3倍の10~15分かける事がほとんどです。以降が養生法の領域としています。

 なぜ3倍の時間をかけるのか?かかるのか?

 そこにはコーチする側とクライアントのやり取りがあるからです。

 やり取りとは、コーチ側の質問、クライアントの内観、というものです。

 その刺激を感じて身体がどのように変化していくのか?というところに本人に意識を向けていただき、またそうなるような質問をし、自分自身で感覚の変化を掴んでいただきます。

 刺激→結果の感覚、ではなく、刺激→どのように変化し→結果の感覚に至るのか、ということになります。

 どのように、という部分が大事ということです。

 後者を実現すると、そのプロセスの中で自分の癖が感覚としてより明確にわかったり、様々な日常に活かせる有効な気付きが得られます。

 その後者を実現するために必要なのが、自分で考える、内観する、自分に目を向ける、ということです。その為にはコーチとのやり取りが必要、やり取りはさすがに5分では、3回では終わらないということです。

 わかりやすく言えば、駅から目的地までの道のりをタクシーで行くのと、歩いていく事の違いかもしれません。

 タクシーで行くと早く行ける、楽にいける、というものですが、

 歩いていくと様々な情報が入ってきます。どこが危険なのか、どこが歩きにくいのか?どこが迷いやすいのか?その過程でどんなところがあるのか?

 そういうモノコトを得られます。

 どちらがその街(身体)を知っているのか?と言えば答えるまでもありません。

■最後に
 セルフケアと養生法は違いでしかなく、その違いを掴んだうえで何を選択するのか?という事になります。

 違うものをそれぞれの良いところだけを抽出して、どちらかのデメリットを強調し、自己の優位性を保とうとするというのは私は好きではありません。

 セルフケアのメリットは養生においてデメリットになることもあれば、養生のメリットはセルフケアのデメリットになることもあります。

 本来は分けて考えることができないものをあえて分けてみました。

 情報というのは必ず前提があり、前提の解釈によって全くもって変わってしまいます。

 セルフケア・施術者が重要視する傾向にあるのは説明、そして納得、その視点で語られているのか?

 コーチが重要視するのは質問、そして内観、その視点で語られているのか?

 もしくはどのような比率で、どのような形で語られているのか?

 その辺を注意深くみていく必要があると思います。