8
コラム

2015.01.22

呼吸の中心

第8回コラムは呼吸の中心についてです。

呼吸の中心とは、身体の構造的にみた中心ではなく、その人が最も深く呼吸できるポジションを指します。

そもそもなぜこのような曖昧な表現を使うのかと言えば、その人の機能的ポジションは最終的にはその人にしかわからないからで、外部からの観察で、その人の機能的ポジションを決定すること自体に無理あると考えるからです。

古武術由来の整体術・活法の世界に「細胞との対話」という言葉があります。

基本的に傾向は確かにあるものの、その人の調整方向はその人の細胞(身体)に聴くというものです。その人に関わる情報は基本的に全てその人が持っており、私達はそれをいかにキャッチし(キャッチする方法はいくつかある)、その人自身が自分で戻る力を引き出して、自分自身で調和された方向に向かうことをお手伝いするのか?にということになります。

実際には、腰椎の過剰前弯であっても、その人の調和されたポジションかもしれません、骨盤の前転・後転もその人によってどちらがいいか調べると実際には構造的には逆の方向になる場合すらあるということです。

そういうことがあって、形として決めつけることはせずに、あえて曖昧な表現を使っているのです。

それでは本題にいきます。

深呼吸という言葉を聴くと、多くの方がたくさん息を吸おうとします。*この場合の深呼吸は特段胸式・腹式の意識はない自然に行う深呼吸です。

でも、よく言葉を見てみると、

深呼吸とは、深く呼吸することであって、たくさん吸うこととは限らないと考えることもできます。

しかし、多くの方の無意識的な深呼吸の基準は深く呼吸することではなく、たくさん呼吸することです。深く吸えればたくさん吸えるということもあるのですが、ここの意識は大事です。

たくさん吸おうとしたときにありがちなパターンは、

呼吸を身体の前側でしようとすること。

人間は逃げやすい方に逃げていきやすい生き物と考えれば、腹・背で見た場合は、呼吸が腹側に逃げやすいのは説明するまでもありません。

背中がある種の壁になっているの対して、頚部・腹部は極めて柔らかくできています。

当然逃げやすい方に逃げていきやすいのですので、呼吸を前側でしようとする方は多いです。

では、そうするとどうなるのか?

深呼吸をした際に、いっけん大きな動きとして視認でき、たくさん吸えているように見えますが、実は深く吸えているとは限りません。ちなみに丹田呼吸という視点で言えば、丹田に落ちずに腹部の前側に突出しているだけということになります。

深呼吸がうまくできる場合の多くは、深呼吸時の外見から見た身体の動きは小さいです。そして、よく観察すると身体の中心からきれいに膨張と収縮が行われているのがわかります。

この呼吸の中心は、呼吸の深さや自律神経系・循環系への影響だけではなく、筋・関節・神経・免疫にまで影響を及ぼします。

呼吸の中心が前方にズレると、伸筋優位の力づくの動きになりやすく、アウターマッスルの過剰緊張も起こりやすく、またインナーマッスルの脆弱化にもつながり、また各関節の単体での関節運動や上肢ー体幹、下肢ー体幹のような連動性にも影響を及ぼします。

筋・骨格系の問題の基礎でもあるということです。

膨張と収縮のエネルギーの波及や方向性、または関節の開閉機能にも偏りが生じ、循環・免疫系も正常に作動しなくなりやすくなります。

また、それが呼吸をさらに浅く偏りのあるものにするという一種の悪循環を生じます。*この辺は講習の際に詳しくお伝えすることです。

私は動きや姿勢などの基準も呼吸においています、身体が機能しやすいポジションとは呼吸が自然であるポジションと考えていますので、身体の動き=呼吸と捉えます。

冒頭でも申したように、構造を基準には考えておらず、構造は考慮しつつも呼吸を基準として考えることが最も効率的であると確信しています。

ですので、呼吸の中心を整えるということは、動きの中心、身体の中心、循環の中心を整えるということに等しく、つまりはこれが体質に繋がってくると考える所以です。

では、何をもって呼吸の中心を判断して、どうすればいいのか

どんな動きでも呼吸の中心を保った動きは大事なのですが、一つわかりやすい例を挙げれば、ヨガでいうダウンドッグ(下向き犬のポーズ)が指標にも調整にも適しています。

ダウンドッグという動きを無理なく、自然に決める事ができると、自然に呼吸は深くなり、大きな身体動作のパフォーマンスも改善されます。

もちろんそれだけで全て解決とはいきませんので、講習では、基本的に呼吸の中心をつくるという目的の動きを4~5種類、またほとんどの動きにおいて、この呼吸の中心という概念は入っています。

これはあくまで私見として受け取っていただきたいのですが、思想や哲学を除いて単純に動きとしてみた場合、いわゆる気功のような動きは実は呼吸の中心をつくる動きそのものであると言えなくはありません。

呼吸が中心で出来ているか?呼吸の中心ができているか?

それが身体の膨張と収縮のリズム、エネルギーの波及・方向性に大きな影響を与えてきます。

最も最初にやることであり、最も重要なところ、それが呼吸の中心です。

その呼吸の中心と四肢との関わり、ハブとなる肩や股関節の働きがわかると、呼吸による膨張と収縮という働きの全体像(全身)が見えてきます。